さっちゃん日記 (1) 再会

こんにちは。さっちゃんです。


「さっちゃん?
あんた、
さっちゃんやろ?」


あんこをまぶしたやわらかいお餅を、

どうやってあんこをこぼさず、

一本の竹串で切り分けて口に運ぶかしか考えていなかった私の頭の上から、

その声はふってきた。


ヤだ、

あんこ、

こぼしちゃったよ。

新しいお餅と交換してくれるかな?


顔をあげると、

目の前に、

藍色に染め抜かれた木綿の前掛けをし、

丸いお盆を胸の前に抱えたおばちゃんが立っていた。


あら、

おばちゃん、

さっき私に抹茶セットを持って来てくれたお店の人じゃない?

どうして、

私の昔の呼び名を知ってるの?


「さっちゃん、
ミカちゃんのおばちゃんやよ。
覚えとる?
裏に住んどったやろ。」


ミカちゃん?

どの、ミカちゃん?


あ~あ~あ~、

そういえば、

伊勢の神久に住んでいた頃、

同じ幼稚園にミカちゃんて子がいたなあ・・・

だけど、

二ヶ月くらいで私は引っ越して、

それっきりになっていた。

今、

ミカちゃん、

どうしているのかな?


「さっちゃん、今、どこに住んどるん?
松阪?
エエ!
奇遇やわあ。
うちのミカちゃんも松阪に住んどるんよ。
ほら、あの、何とかいうショッピングセンター、
あそこの近所やわ。
今度、遊びに行ったってえな」


おばちゃんと近況報告に花が咲き、

すっかり冷めてしまった抹茶を飲みながら考えた。


このおばちゃんと最後に会ったのは前々回の遷宮の時、

つまり、

40年前だったはず。

40年たって、

おかげ横町でお茶してた私とおばちゃんが再会できるなんて、

これも伊勢の神様が結んでくれたご縁にちがいない。

遷宮終わったばかりのお伊勢さんにお参りしたくて、

今日は一人ではるばるやって来てホント、

よかった。

だけど、

待てよ・・・


40年前の私って、

5歳よ。


私の顔って5歳の時から変わってないってこと?


え?
え?


さっちゃんでした。